不動産業者経由にて売却の中古住宅取引での「現況有姿取引」で引き渡される際に、気を付けるべき事。

もし、不動産業者仲介で売られている同じような地域の年数規模的にも同じような物件にてA社売りの価格が1,000万円で「現況有姿引渡し」B社売りの価格も1,000万円で「契約不適合責任通知期間2年まで有効」

となっていた物件を見てどちらを安心して購入できそうだと思いますか?

不動産業者売り出しの不動産物件の引渡し条件にて慣例として行っています、“現況有姿”での取引が一般的かと思いますが、実は民法上は特例(イレギュラー)取引である事はご存知でしょうか?

以前は瑕疵担保(カシタンポ)責任と呼ばれていましたが、この度令和2年4月の民法改正にて“契約不適合責任”へ転換されました。

現況有姿とは“隠れた瑕疵(欠陥)”があっても売主が修補する余地はなく、売主は買主に物件を現況で引き渡せば債務の履行を果したことになるといった考えから取引されていた慣例でした。しかしそれでは、対価を払う買主にあまりに不公平なため、法律にて債務不履行責任とは別に『瑕疵担保責任』という制度を設けて、買主に損害賠償請求と解除の2つの救済手段のみを与えたとされてきましたが、当事者の意思や常識からかけ離れているといった理由からその救済手段も無くしていたのが“現況有姿特例”でした。

この度の民法改正では、不動産のような特定物の売買契約であっても、売主は、物件を単に現況で引き渡すだけでなく、「契約の内容に適合した物件」を引き渡す契約上の債務を負うという考え方を前提に、物件に欠陥があれば売主は債務不履行責任を負うという規律に改めました。

すなわち、売買契約において買主に引き渡された目的物が「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」であるとき、買主は売主に対し契約に基づく本来の債務の内容として①修補などの追完請求②代金減額請求③損害賠償請求④解除を求めることができるとされました(改正民法564条)

しかし、いままで使用していた中古物件を「種類、品質又は数量」がこの時点ですよと立証するのは至難の事かと思われます。個人間取引におかれましては、以前の瑕疵担保責任を負わない旨(免責)が可能であった事と同様に改正の契約不適合責任を免責とする事も特約で可のようです。ただし、『売主が知っていた契約不適合』については無効となっています。

 

すなわち今後の中古物件取引において「契約不適合責任」を免責の状態すなわち「現況有姿」で引渡すには、売主が知っている事実を伝える必要がでてくるという事です。

仲介業務の実務的に申し上げますと、「付帯設備表及び物件状況確認書(告知書)」にて売主に知っている事を告知して書面化して引き渡すといった事が必要となってきます。この書面から漏れて知っていながら告知していなかった場合は引渡後の修補や代金減額請求に応じなければならないという事態になろうかと思います。

買主の権利の期間制限…「買主は、契約不適合を知った時から1年以内にその旨を『通知』しなければならない。また、契約不適合を知った時から5年、物件の引渡しから10年で買主の権利は時効で消滅する」(改正民法566条)

もし、中古物件の取引を仲介業者抜きに行うとするとこういった取り交わしはほぼ出来ないのではと思われます。そうすると売り渡した側は引き渡した後も通知期間を定めない限り、引渡しから10年は面倒を見なくてはいけない事となるでしょう。

さらに、自分の売り出す物件の状況が正確につかめていない場合は、「建物状況調査(ホームインスペクション)」を利用するのも手です。また購入側も売主の記憶だけで告知された状態で引き渡されると、告知書を交わされ免責された状態で、後に不具合が発覚しても売主に責任を負えなくなってしまう可能性が高いため、引渡前にインスペクションを行い引渡前の状況を明らかにしておくと、売主に修補してから引き渡してもらうように請求できる事となるでしょう。

特に家の傾きは売主の感覚では傾きと感じていなかったとしても、購入者側は傾いていると感じてしまうといったケースが考えられます。

民法上の瑕疵担保責任の内容といたしましては、「契約の解除」と「損害賠償」があります(民570、566)が、契約の解除ができるのは、「瑕疵があるために売買の目的を達することができない場合」に限られます。この目的は、契約の内容とされていることまでは必要でなく、売主が知っている必要もありませんが、単に買主が意図していたというだけでは足りず、売買の目的、性質その他契約当時の事情から客観的に理解されるものであることを要します。そして、売買の目的を達することができないというためには、「修補が容易かつ低廉にできない場合」でなければならず、それができる場合には解除はできません。 住宅が傾いているケースは修補が容易ではありませんから、「契約の解除」の該当になろうかと思われます。しかし契約の解除ですから、引渡しまでに発覚しなくてはならないでしょう。

引き渡した後の発覚であれば、損害賠償になるかと思われます。損害賠償については、その範囲について争いがあり、①買主がその環疵がなかったと信頼したことによる利益の賠償に限る見解(信頼利益説)、②債務不履行と同じように転売利益等王段疵のないものが給付されたら受けられなであろう利益の賠償を含む見解(履行利益説)、③買主の負担した対価(代金)に限る見解(対価的制限説)がありますが、多くの裁判例は、信頼利益に限るとの見解をとっています(仙台高判平12・10・25判時1764・82、名古屋高判昭40・9・30判時435・44等)。
一般的に信頼利益は「当該瑕疵がないと信じたことによって被った損害」、あるいは「当該瑕疵を知ったならば被る事がなかった損害」と定義されます。 住宅の傾きを知らずに購入し、住んでからわかった場合はこちらに該当になるのかと思われます。その事については裁判による判例がいくつかございます。

裁判の判例(千葉地松戸支判平6・8・25判時1543・149)より、「しかしながら、本件のように、契約を解除しないまま、買主が、いわば瑕疵の修補に代わる損害の賠償を求めるような場合に右修補費用相当の損害が、信頼利益または履行利益のどちらに該当するかを判断することは、一転していちじるしく困難になり果たしてその区別の意味があるのか否かさえ疑問になる程である・・・」と述べている通り、損害を立証するのは裁判でも極めて混乱している様子がうかがえますので、事前にもめごとを避けるためには建物状況調査(インスペクション)を行い、購入前の判断を行った方が安心かと思われます。

という事で前段のA社売りの「現況有姿」物件を購入すると引渡後の不具合は自分持ちの可能性が高く、B社売りの「契約不適合責任通知期間2年まで有効」物件では2年は不具合を面倒みていただける物件という事ですので、B社の方が安心して購入しやすいといった結果となります。

「現況有姿」取引というのは、購入者側にしてみれば、引渡前には十分注意して受けとる必要があるという事です。

PS.今回取り上げた民法改正の内容は解釈が複雑なため、内容に不備がある可能性がございます。専門科の方々等不備指摘がございましたら遠慮なくご報告いただければと存じます。